9 分で確認

マネックス証券がBrazeで広げた顧客接点とデータ活用 — 証券業界特有の配信規制の中で

Use Caseエンゲージメントリテンション
TopicsパーソナライゼーションSnowflake データシェアリング
Industry金融サービス
Productアプリ内メッセージモバイルプッシュ通知メール
monex証券のアプリ画面。お知らせ通知が表示されている
課題

証券会社は金融商品取引法をはじめとする各種規制のもと、リスク性の高い商品はお客様の明示的な受諾なしに広告・メールを送ることができない。電話営業が馴染まないネット証券の文化もあり、顧客接点は実質メールのみ。許諾率の低下に加え、取引画面への施策掲載には基幹システム改修が必要で数カ月を要するなど、スピーディーなマーケティングを阻む構造的課題が重なっていた。

戦略

Brazeを導入し、Webポップアップとアプリプッシュ通知を新たな顧客接点として整備。取引履歴・口座状況・許諾フラグをもとに精緻なセグメントを設計し、投資経験レベルに応じた段階的コンテンツ配信を実現。10種類以上のクリエイティブのA/Bテストで施策を最適化し、メール配信を停止した局面でもポップアップが顧客接点を維持した。

成果

継続取引ユーザー向け施策では月間最大750ユニークユーザー口座の向上、復帰取引ユーザー向けでは月間最大400口座ユニークユーザー口座の向上を見込む。カムバックキャンペーンでのポップアップ活用はメール単独比で応募数2倍を達成。1年間の収益インパクトは約1億円と試算。2025年1月の月間新規口座開設数は約4万7,000件と創業以来最高を記録した。

Monex
INDUSTRY
PRODUCTS USED
指標による成果

約1億

Braze活用による年間収益インパクト試算

2倍

カムバックキャンペーン応募数(ポップアップ活用後、メール単独比)

月間最大750口座UU

継続取引ユーザー向け施策による向上見込み

御社の事業の強みと最近のトピックをお聞かせください。

当社は1999年にインターネットでの株式取引を開始し、独立系の証券会社として事業を展開してきました。転換点となったのが2024年1月のNTTドコモとの資本業務提携です。d払いアプリからNISA口座をスムーズに開設できる機能や、投資信託の保有残高に応じたdポイント還元といったサービスを次々と整備し、ドコモ経済圏のお客様にとって、価値ある選択肢としての認知を高めてきました。2025年1月には月間新規口座開設数が約4万7,000件に達し、創業以来の最高水準を記録しました。提携前が月8,000から1万件程度でしたから、大きな変化です。

競合他社が株式手数料の無料化に踏み切る中、当社はその競争には加わらず、付加価値で勝負する道を選んでいます。同じ投資信託や株式はどの会社で購入しても内容は変わりません。それでも選んでいただくためには、お客様にとって意味のある体験を届けることが不可欠です。2024年の新NISA解禁以降に急増した投資初心者の方々に合ったUI・UXの磨き込みにも、現在注力しています。

マーケティング部長 益嶋 裕氏が右手をあげながら話している様子

マーケティング部長 益嶋 裕氏

Braze導入前の課題と、選定の決め手をお聞かせください。

ネット専業の証券会社は、対面営業や電話でご連絡、という接点を持ちません。お客様との連絡手段は事実上メールだけという状況が続いていました。加えて、証券会社には金融商品取引法をはじめとした厳格な配信規制があります。信用取引やFXなどのリスク性商品については、顧客属性や同意状況に応じた適切な勧誘・情報提供が求められます。特にFXについては、お客様の明示的な同意がない限り、広告やメールによる案内ができません。送りたくても規制上送れないお客様が多数いらっしゃる中で、メールの配信許諾率自体も年々低下していました。取引画面への施策掲載も基幹システムの改修が必要で、バナー1つの追加にも数カ月単位の工期がかかる構造でした。スピーディーに施策を打てる環境が整っていないことが、長年の課題だったのです。

以前に導入していたMAツールは、設定概念が独特で現場担当者が使いこなせず、最初に組んだシナリオが動いているだけ、という状態でした。ツール刷新にあたって重視したのは、現場で実際に使われること、そしてチャネルの拡張性です。当初はWeb上のポップアップを主軸に考えていましたが、メール・プッシュ通知・SMS・LINEなど複数のチャネルを組み合わせて将来的に発展させられる基盤が必要でした。複数ツールを比較検討した結果、UIの使いやすさと、週1回の定例ミーティングや技術的な問い合わせへの迅速な対応によるサポート体制の手厚さでBrazeを選択しました。BrazeがEUのデータ保護規制に準拠しており、金融機関として求める高度なセキュリティ水準を満たしていた点も、重要な判断材料になりました。(田中 佑典氏)

経営企画部 データ・インテリジェンスグループ長 田中 佑典氏がPCを前にしてインタビューに答える様子

経営企画部 データ・インテリジェンスグループ長 田中 佑典氏

Brazeを活用した具体的な施策をご紹介ください。

現在、当社で扱うほぼすべての金融商品でBrazeのブラウザ内メッセージ(ポップアップ)施策を展開しています。特に力を入れているのが、投資経験に応じた段階的なコンテンツ配信です。取引履歴や口座開設状況をもとに対象を3つのフェーズに分けてセグメントを設計し、各フェーズに合った内容を届けています。たとえば現物取引の経験はあるが信用取引の口座をまだ持っていない方には、取引の仕組みやリスク管理の基礎を解説するコンテンツを配信し、正しい知識のもとで次のステップを検討いただける設計にしています。信用取引は難しそう・怖いといったイメージが先行しがちですが、正確な情報を段階的に届けることで、お客様自身が納得して判断できる状態を作っていくことが目的です。

A/Bテストにも積極的に取り組んでいます。積立NISAの新規取引促進施策では、10種類以上のバナーパターンを同時テストし、お客様の反応を継続的に検証してきました。シンプルに始め方を伝えるパターンと、お客様の関心を惹きつけるようなデータに基づいた訴求を組み合わせたパターンとでは、クリック率に明確な差が出ます。BrazeはA/Bテストの設定が直感的で複数パターンを素早く登録できるため、仮説検証のサイクルを短期間で繰り返せます。こうして蓄積されたデータをもとにクリエイティブの精度を上げていくことが、Brazeを使った施策改善の核心です。

米国株チームでは、Brazeの機能のひとつである、ブラウザ内メッセージを使ったお客様へのアンケートも実施しています。「どんなレポートがあると役立ちますか」という問いかけをメール経由で行うと開封率が低く回答が集まりにくいのですが、ログイン直後にポップアップで表示することで、気軽に回答いただける環境を実現できました。また、Brazeのメール配信機能とLiquid(動的パーソナライズ機能)を組み合わせた個人向けレコメンド配信のテストも近日開始する予定で、活用の幅はさらに広がっています。(田中 空見子氏)

マーケティング部 リレーション推進グループ マネジャー 田中 空見子氏がインタビューに答える様子。ピンクのジャケットに白いシャツを着ている

マーケティング部 リレーション推進グループ マネジャー 田中 空見子氏

フィッシングメール対策でメール配信を停止した局面で、Brazeはどのような役割を果たしましたか。

証券業界全体でフィッシングメール被害が深刻化したここ1年ほど、当社はキャンペーン告知メールとログインを促すメールの配信を全面停止しました。お客様の資産を守るための判断です。マーケティングの現場からすると、キャンペーンを企画しても告知する手段がほぼなくなるという厳しい局面でしたが、その代替として機能したのがBrazeのブラウザ内メッセージとアプリのプッシュ通知でした。ログイン済みのお客様にセグメントを絞ってポップアップでキャンペーン情報を表示でき、フィッシングとは完全に切り離した安全なチャネルでご案内できます。

この手法を休眠顧客向けのカムバックキャンペーンに適用したところ、応募数がメール単独時の2倍になりました。以前なら「キャンペーンの反応が伸びていない」という状況になると打つ手がほとんどなかったのですが、今ではBrazeのポップアップを組み合わせることで施策の幅が広がっています。それ以降、施策の初日からBrazeを組み込むことが当たり前の運用になりました。

投資信託画面のスクリーンショット

ポップアップ表示の例

今後のBraze活用と、データ活用のビジョンをお聞かせください。

目指しているのはデジタルマーケティングのさらなる高度化です。メールの開封・クリック、アプリ通知のタップ、オウンドメディアのコンテンツ閲覧といった行動データを一元的に把握し、お客様が実際にどんなアクションを起こしたかを理解することが出発点になります。現在はデータプラットフォームのSnowflakeとBrazeとのデータ連携が進んでおり、BrazeからSnowflakeへのデータ取り込みはすでに稼働中です。施策の効果を定量的に検証してPDCAを回していきます。

次のステップとして、Snowflakeでのユーザー分析をAIに担わせ、その結果をBrazeに直接連携してメールやポップアップの配信まで一気通貫でできる環境を1〜2年以内に整備する計画です。BrazeはAPIが豊富で外部システムとの連携にも柔軟に対応できるため、この構想の実現に向いています。Liquidを活用した個人向けレコメンド配信のテストも近日開始する予定で、一人ひとりに最適化されたコミュニケーションを確率していきます。

さらに大きな展望として、ドコモとのデータ連携の深化があります。投資の意思決定は、月々の生活支出や近い将来の大きな出費といった生活全体の文脈の中で行われるものです。ドコモが保有する生活に関するデータと証券データを組み合わせることで、「今このお客様に届けるべき情報はこれだ」という精度を格段に高めることができるはずです。Brazeにドコモのお客様データを取り込み、新規獲得施策にも活用できる環境を整えることが次の大きなテーマです。

フィッシング対策でメール配信を停止せざるを得なかったあの局面で、Brazeのポップアップが私たちのマーケティングを救ってくれました。今では施策の初日からBrazeを組み込むことが当たり前の運用になっています。

益嶋 裕氏

マネックス証券 マーケティング部長

インタビューを受けたmonex groupsの社員3人がロゴの前に立っている

Key Takeaways

マネックス証券の成果

金融商品取引法の配信規制とフィッシング対策によるメール停止という制約に直面しながら、BrazeのウェブポップアップとA/Bテストを活用して顧客接点を維持・拡大。カムバックキャンペーンでの応募数2倍、年間収益インパクト約1億円を達成し、証券業界でのBraze活用モデルを示した。


今こそ、進化するマーケターに。