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2023年3月開業の北海道ボールパークFビレッジ(以下、Fビレッジ)運営を通じ、「F VILLAGE アカウント(以下、FID)」を顧客基盤として活用。FIDを通じて多様なファーストパーティーデータ(行動履歴、販売履歴など)を蓄積していきましたが、それらをマルチチャネル施策等に十分に反映できていませんでした。また、マルチチャネル施策では、チャネルごとのマーケティング担当者間の連携・調整に手間取り、施策のスピード感に課題がありました。
本格的な「街づくり」を目指すユニークな事業モデルを推進するFビレッジは、野球ファンだけでなく野球以外の趣味嗜好を持つ層の来場者数増加が不可欠であり、デジタルツールによる顧客体験創出が必須と認識し、FIDとBrazeを連携させ、蓄積していたFIDのファーストパーティーデータを統合し、「顧客育成」および「顧客基盤の拡張」を目的とした各種施策を展開しています。
「カゴ落ち施策」では、ある週においてリマインド非送付群と比べて送付群の購入率が+2~3%改善しました。また、「チェックインチャレンジ施策」により、野球ファン以外の層の取り込みに一定の効果が見受けられました。また、ファンクラブの会員向けに実際の来場数に応じて、インセンティブ内容の出し分けを完全自動化し来場を促すなど、各施策において高い成果を上げています。
カゴ落ち施策による購入率のリフト効果
北海道ボールパークFビレッジは、2023年3月に開業しました。この施設はプロ野球チームの北海道日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」を核とする、他に類を見ないボールパークです。
Fビレッジの特長は、その名の通り「ビレッジ(Village)」として、単なる球場併設の施設ではなく、本格的な「街」を目指している点にあります。2025年現在、ホテル、保育施設、農業学習施設など、街を構成する多様な施設が既に整備されています。しかし、これは全体の開発計画の半分以下に過ぎません。残りについても、野球以外の魅力的なコンテンツを取り入れ、世界中から人々が集まるような街づくりのための施設開発が今後も進められる方針です。
街としての機能や魅力を高めるためには、人の集客が不可欠です。そのため、Fビレッジの重要業績評価指標(KPI)の一つに「来場者数」を設定。2024年の年間来場者数は418.7万人を記録し、前年比+21%の増加となりました。2028年にはさらに多くの来場者数を目指しています。
野球ファンだけでなく、野球以外の趣味嗜好を持つ層も含め、デジタルツールを活用した顧客体験の創出が必須です。そこで当社では、Fビレッジの会員アカウントであるFIDを通じて、ファンクラブ限定コンテンツの提供、メールマガジンの配信、Fビレッジ内店舗での買い物に利用できるFマイルの付与など、多角的なデジタルコミュニケーションをユーザーと構築しています。(田邊氏)
事業本部 コンシューマー統括部 マーケティング部 部長 田邊 朋哉氏
マーケティング部では、FIDを通じて各種サービスの利用頻度や店舗での購入金額など、多様なファーストパーティーデータを蓄積していました。しかし、Braze導入前は、オリジナルBIツールで顧客データを可視化していたものの、そこから読み取れる顧客の行動や趣味嗜好を配信コンテンツや配信タイミングに十分に反映できていませんでした。
また、マルチチャネルでの施策を展開する際には、各チャネルの担当者との連携・調整に手間が生じていました。「メールではこの施策、アプリではこの施策、LINEではこの施策」といった形で個別に連携・施策設計を行う必要があり、施策のスピード感に課題を感じていました。(田中氏)
事業本部 コンシューマー統括部 マーケティング部 顧客マーケティンググループ チーフ 田中 義人氏
アプリやWebといった個別チャネルに特化したツールが多い中、Brazeは全てのチャネルを一つのプラットフォームで管理・運用できる点が最大の選定理由でした。これにより、チケット販売やアクティビティの予約など、顧客との多様な接点において、個々の顧客に最適なチャネルを横断したコミュニケーションを模索できると判断しました。また、Brazeの高度な自動化機能によって施策を高速で実行し、迅速に効果検証できることへの期待もありました。(田中氏)
2024年1月にBrazeの導入とオンボーディングを開始しました。導入当初は「カタログ」や「キャンバス」といったBrazeの専門用語に慣れることから始まり、Brazeの潜在能力を20〜30%程度しか引き出せていませんでしたが、プログラミング知識が不要なノーコードツールの使いやすさも相まって、着実に機能を使いこなせるようになりました。(宇田氏)
事業本部 コンシューマー統括部 マーケティング部 顧客マーケティンググループ チーフ 宇田 忠扇氏
来場者数増加のために重要な「顧客育成」と「顧客基盤の拡張」を目的として、BrazeではFID(F VILLAGE アカウント)のファーストパーティーデータを統合した各種施策を展開しています。
例えば、従来のオリジナルBIツールでは不可能だった「カゴ落ち施策」を実施しています。野球チケットをカートに入れたものの購入に至っていない顧客に対し、1時間後と翌日にメールとアプリのプッシュ通知でリマインドしています。リマインド時には、カタログ機能を用いて指定された座席からの景色の画像を添えることで、観戦イメージが湧きやすくしています。この施策により、ある週ではリマインド非送付群と比較して送付群の購入率が2~3%向上しました。
また、「チケット発売お知らせ施策」として、ファンクラブメンバーのランクに応じたチケット発売タイミングに合わせて通知を配信しています。これらのパーソナライズされた施策は、来場の機会損失を防ぎつつ顧客との関係を構築し、結果的にチケット売上の大幅増に貢献しました。
野球チケットの売上貢献施策に加え、野球ファン以外の層の取り込みも進めています。その一例が「チェックインチャレンジ施策」です。これは、北海道にある特定のコンビニエンスストア「セイコーマート」やショッピングモール「イオン」に訪れた際に、Fビレッジ公式アプリを開いてチェックインチャレンジボタンをタップすると、抽選で観戦チケットや店舗で使える割引クーポンなどが当たるというものです。Brazeのジオフェンス機能を用いて、顧客が球場や店舗近くに訪れたタイミングでこの施策の案内をしています。さらに、Braze ランディングページを利用して、家族構成や趣味嗜好に関する簡易的なアンケートを実施し、そのデータに基づいてFビレッジ内の各種施設をおすすめしています。例えば、「ビールが好き」と回答した顧客にはクラフトビール醸造レストラン「そらとしば by よなよなエール」を案内するといった形です。これらの施策により、野球に興味が薄い層の取り込みにも成功しています。(田中氏)
Fビレッジの「F」には、「Fighters(ファイターズ)」のほか、「Fan(ファン)」や「Fusion(フュージョン:融合)」など多様な意味が込められています。「野球×○○」という融合を通じてファンを拡大していくため、引き続きクロスセル施策に注力していく方針です。(田邊氏)
リマインド施策やチェックイン回数に応じたパーソナライズ施策例
Fビレッジは「共同創造空間」をテーマに開発や運営をしておりますが、幅広いBraze活用事例がマーケティング活動のヒントになり得ます。その点、Brazeの担当者からは最新の海外事例などを定期的に共有していただいており、そこで得られた気づきや学びは実際に施策に反映させています。
また、半期に一度、Brazeの担当者には、役員含めたコンシューマー領域の部署長を中心に「エグゼクティブレビュー」を実施していただいています。これにより、Braze運用の意義や効果が組織全体に浸透しており、現場から経営層まで足並みを揃えてマーケティング施策を展開できています。(宇田氏)
短期的には、2025年現在、Braze運用者は約5名ですが、お客様に最も近いグッズ部門や飲食部門など、現場の従業員へも活用の幅を広げることで、より現場の課題に寄り添った施策が展開できると期待しています。
中長期的には、教育施設や病院、エンターテイメント施設などがさらに整備され、Fビレッジの街化が進む過程において、多様なサービスニーズが生まれてくるものと推測します。Brazeを用いてパーソナライズされた顧客体験を提供することで、Fビレッジに集う人々の多様なニーズに応えていきたいと考えています。(田邊氏)
現在は北海道での野球事業が中心ですが、将来的には、Brazeを活用して得た知見をさまざまなプロスポーツ団体に提供していきたいと考えています。また、Brazeの導入は、当社が掲げる「世界がまだ見ぬボールパーク」構想を推進するうえで、非常に重要な要素となっています。
Fビレッジへの「来場者数」増加に貢献する各種施策を展開しました。「カゴ落ち施策」では、カートに入れたものの野球チケット未購入の顧客に対し、メールとプッシュ通知でリマインドを実施。ある週においては、リマインド非送付群と比較して送付群の購入率が2~3%向上しました。また、セイコーマートなどの提携店舗で公式アプリを開く機会を創出する「チェックインチャレンジ施策」では、成果を上げました。