公開 2025年5月16日/更新 2025年5月16日/11 分で確認
デジタルトランスフォーメーションは多くの業界で重要視されていますが、特に金融分野では、業界特有の事情により、いち早く取り組みを進めるべきだと考えられています。
この記事では金融DXについて、そもそものDXの意味から、DXの必要性、金融業界の課題や取り組みの流れ、注意点やポイント、事例などをご紹介します。
金融DXとは文字通り、金融業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)のことです。まずはDXの意味からおさらいしていきましょう。
DXとはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略称で、経済産業省では以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
(出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」より引用)
少し複雑ですが、IT技術を用いてビジネスモデルどころか自社の在り方まで変えていく取り組み、と理解すると良いでしょう。
金融業界のDXとは、銀行・保険・証券会社などにおけるDXのことです。一方、金融DXとは、金融サービスに関連するすべてのDXを指します。
以下は具体的な金融DXの取り組みの一例です。
金融業界は、はんこ文化に代表されるように、これまで厳格な手続きや対面業務を中心に運営されてきました。しかし、スマートフォンの普及や新型コロナウイルスの感染拡大による社会全体の価値観の変化もあり、消費者のなかでは非対面サービスの需要が増しています。
実際、スマートフォン一つで送金・決済ができるサービスやモバイルウォレットを提供する企業が登場するなど、従来の伝統的な金融機関の優位性は薄れつつあります。
また、人手不足や人件費高騰、多様化する働き方への対応など、他業界と共通する背景もあり、金融業界の企業にもDXへの取り組みは必須となっています。
しかし、金融DXを進める際には、業界ならではの課題にも直面しがちです。その具体的な課題について解説します。
多くの金融機関では、基幹システムに古いITインフラが長年にわたって使用されており、老朽化や複雑化、ブラックボックス化が進行しています。より身近な課題として、部署やサービスごとに利用システムやデータファイル形式が異なるケースも多く、大規模な見直しが必要となります。
前述のはんこ文化のように、金融業界では長年にわたって対面でのやり取りが重視されてきました。オンライン決済や非対面での商談などを推進していくためには、組織の習慣や文化の変革にまで踏み込む覚悟が求められます。
2018年にある仮想通貨取引所がハッキング攻撃を受け、約580億円相当もの仮想通貨が盗まれる事件が起こりました。2024年には大手エンタテインメント企業グループがランサムウェアの被害に遭うなど、近年はサイバー攻撃が深刻化しています。
お金を取扱う金融業界では、内部からの情報流出も含め、他業界よりもさらに高度なセキュリティ対策を構築しなければなりません。
金融機関は収益構造が安定しているイメージもありますが、金利の変動や手数料の引き下げ競争などで経営が圧迫されるケースも散見されます。レガシーシステムの刷新やAI導入には多額の投資が必要となり、短期的にはコスト負担が大きくなるでしょう。コストを理解した上で、上層部まで含めて一丸となって取り組みを継続的に進められるかが、金融DXの成否を分けます。
金融DXを推進できるIT人材の採用あるいは育成も課題です。他業界を含め、IT人材やデータサイエンティストの需要が高いのは周知の事実ですが、それに加えて金融業界ならではの慣習までを理解した人材を求めるとなれば、確保は容易ではありません。自社での教育体制を整えるなど長期的な視点も必要となります。
実際に金融DXを進めようと考えた際に、まずは何から始めれば良いのか迷っている方も多いと思います。金融DXを進めるための一般的な流れは以下の通りです。
もっとも重要となるのは、なぜ金融DXに取り組むのか、その目的とゴールを明確にすることでしょう。明確な芯がなければ長期的な取り組みは難しくなります。
続いて、金融DXを進める際のポイントと注意点をご紹介します。
金融DXによるデータ活用が進めば進むほど、セキュリティ対策とプライバシー保護の重要性は高まります。
顧客の個人情報や資金を扱う金融機関は、万全に万全を期した体制を整えなければなりません。暗号化技術や認証システムの強化など、最新のサイバーセキュリティ知識をもとに、常に仕組みをアップデートしていくことが重要です。
高度なデジタルサービスを提供しても、利用者のITリテラシーとのギャップがあれば、それは優れた施策とはいえません。特に金融業界は、ITに知見の少ない高齢者も含む幅広い属性の顧客を迎えます。使いやすいユーザーインターフェースの導入やカスタマーサポートの充実はもちろん、一人ひとりに最適な顧客体験を提供しようとする姿勢が大切です。
Brazeには、金融サービスにおけるパーソナライズされた顧客体験の提供の支援に成功した事例があります。金融業界のインサイトレポートとあわせてぜひご確認ください。
IT人材の確保のためには、採用活動だけでなく既存社員の育成も重要となります。すでに金融業界に身を置く社員にITスキルが身に付けば、金融DXを牽引する頼もしい存在に成長してくれるでしょう。
リスキリング(学び直し)の支援制度や研修体制の充実を検討しつつ、そもそものDXの意義やメリットを社内に周知していくことで、全体のモチベーションを高める必要があります。
金融庁や各国の規制当局によるルールは年々厳格化、細分化されています。特に、一般への浸透からまだ十年と経っていない暗号資産の分野では法整備も進行中の段階です。
新しい金融商品やデジタルサービスの提供に際しては各種法令への適合を確認し、社会から期待される自社の姿勢を裏切らないよう、コンプライアンスの徹底も欠かしてはいけません。
最後に、金融DXの具体的な事例をご紹介します。
カナダの資金管理プラットフォーム「Wealthsimple」では、顧客との関係を強化し自社サービスへの資産の移動を促すためにBrazeを導入しました。
同社は数百万人もの顧客を抱えており、一人ひとりにパーソナライズされた体験を提供することに課題がありました。そこで、Brazeのメール、アプリ内メッセージ、コンテンツカード(魅力的な画像や文章を指定条件にあわせて適切な顧客に提示できる機能)を組み合わせて利用しました。Wealthsimpleの口座に一定の資産を移すと携帯電話がもらえる魅力的なキャンペーンの情報を一人ひとりに寄り添う形で届けた結果、チームの四半期純預金残高を40%も向上させることに成功しています。
>>Wealthsimpleが顧客エンゲージメント戦略で顧客獲得と長期的価値を促進
ある生命保険会社では、顧客対応にAIの力をいち早く活用しています。
同社では、営業担当と顧客の会話内容から、商談成約率を高めるアドバイスをリアルタイムに表示できるAIを導入しました。
例えば、保険商品の説明前に保険自体の必要性を説くように瞬時にアドバイスをしてくれるなど、担当者の経験や力量を問わず商談の質を保てるような取り組みを進めています。
ある店舗型の銀行は、インターネット上で契約締結ができるオンライン型の住宅ローンを提供しています。
住宅ローンのような大きな買い物は、かつては対面での取引が当たり前でした。しかし、対面取引では、来店してローン契約を申し込み、審査を待って、結果が出るとまた来店して……と多くの手間がかかります。オンライン完結となったことで、休暇を取りにくい顧客でも自宅で時間のあるタイミングに作業できるようになったそうです。
金融DXとは金融業界におけるデジタルトランスフォーメーションのことであり、金融サービスに関連するすべてのDXを指します。
金融DXは金融業界全体に求められる変革ですが、実行に向けては、ご紹介したような業界特有の事情を理解したうえで取り組むことが欠かせません。まずはその事情や課題を把握した上で、ぜひBrazeのようなITツールを活用してDXを進めていきましょう。