公開 2023年11月26日/更新 2023年11月27日/11 分で確認
近頃目にする機会の増えたビジネス用語「D2C」。しかし、おおよそのイメージはできても、その詳細までは知らない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、D2Cの定義や注目の背景、関連用語や既存モデルとの違い、メリット&デメリット、導入のポイントや成功事例をわかりやすくご紹介します。
D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、メーカー・製造者である企業が消費者と直接取引を行うビジネスモデルを指します。Amazonなどの大手通販プラットフォームや仲介業者を通さず、自社の媒体(主にECサイト)を用意して販売を進める手法です。
元々D2Cは2000年代後半頃、アメリカのスタートアップ企業の間で流行したのが起源だとされています。近年は日本でも導入が進みつつあり、株式会社売れるネット広告社の「デジタルD2C市場の規模」の調査によれば、2020年時点の同市場の推計金額は2兆2,200億円。2025年には3兆600億円規模にまで成長すると予測されています。
出典:株式会社売れるネット広告社「デジタルD2C市場規模、2025年には3兆円に達すると予測」
なぜこれほどD2Cが注目されているのか、まずはその背景を見ていきましょう。
D2Cに注目が集まる背景には、スマートフォンやSNSの普及によるオンライン購買行動の浸透があります。
総務省統計局の「家計消費状況調査年報(令和4年)」によると、2022年にネットショッピングを利用した世帯(2人以上)の割合は52.7%。2012年時点の21.6%から、この10年で倍以上にまで成長しています。消費者のネット購入への抵抗感が薄れる中、企業はオンラインを主要な販売チャネルに設定しやすくなりました。
また、昨今は競合他社との差別化の手段として、ブランドイメージ向上の重要性が指摘されています。製造から販売まですべてを自社で担うD2Cはプロモーション施策の自由度が高く、ブランディングを行いやすい性質を持ちます。
出典:総務省統計局「家計消費状況調査年報(令和4年)」
D2Cと既存のビジネスモデルとの違いは、製品の開発から消費者の手元に届くまでの過程をメーカー企業が自ら担う点です。
大手ECモールや小売を介する従来の販売形式には、以下の課題があります。
(例:ECモール内の商品ページのデザインや梱包・配送形式などに制限がある)
一方、D2Cは中間業者への手数料がかからず、自由にプロモーションを実施でき、顧客データも直接収集可能なので、上記の課題をすべて解決できます。
D2Cの類似用語として押さえておきたいのが「B2C(Business to Consumer)」と「B2B(Business to Business)」です。3者の違いは以下のとおりまとめられます。
用語
特徴
D2C(Direct to Consumer)
メーカー・製造者の企業が消費者と直接取引をするビジネスモデル。B2Cの一部。
B2C(Business to Consumer)
企業が消費者と取引をすること。消費者を主な顧客と想定するビジネスモデルを指す。
B2B(Business to Business)
企業が企業と取引をすること。企業を主な顧客と想定するビジネスモデルを指す。
B2CとB2Bは主なターゲットを示す用語であり、中間業者の有無は問いません。メーカー企業が消費者と直接やり取りをするD2Cは、B2Cの一部にあたります。
続いて、D2Cのメリットを深掘りしていきましょう。
ほかの企業を介さないD2Cは、施策の自由度が高いのが特徴です。例えば、自社のイメージカラーやフォントを定め、ECサイトやラッピングのデザインまですべてを統一するなど、ブランド独自の世界観を構築できます。思い立った当日にセールを実施&SNSでの集客プロモーションを仕掛けるといった、自社単独ならではの素早いアクションを実行できるのも長所です。
D2Cは中間業者に対する手数料がかからないため、収益面で優れています。大手ECモールへの出品時には、プラットフォーマーへ「売り上げの15%」などの販売手数料を支払う形が主流で、その負担はメーカー企業に重くのしかかります。しかしD2Cなら、売れた金額を自社の利益として独占できます。
消費者と直接コミュニケーションを取るD2Cでは、従来は小売やECモール側で留まっていた顧客行動のデータを自社で収集・蓄積できます。「割引クーポンを配布したとき、24時間以内にどれだけの人がECサイトを開き、どの程度の割合で購入してくれるのか」「製品Aと同時購入されやすい製品は」といった、今後の施策に活用できるデータも自前で分析できます。
顧客と自社の距離が近づくD2Cでは、リピーターやファンの増加も期待できます。大手ECモールへの出品時には、「Amazonで商品を買った」としか消費者は認識してくれず、思うようにブランディングが進まないケースも珍しくありません。一方、自社を前面に打ち出せるD2Cであれば、顧客体験の質次第で着実にファンを獲得していけます。
D2Cは多くのメリットがあるビジネスモデルですが、デメリットについても把握しておく必要があります。
前述のとおり、D2Cは中間業者への手数料がかからず収益面で優れた仕組みです。しかし、実践にあたっては、自社ECサイトを構築したり、サイトへの集客プロモーションを実施したりといったコストがかかります。
特に、サイト運営が軌道に乗るまではUIを次々に改善していくなど積極的な対策が必要で、まとまった費用も労力も求められます。
集客やブランディングを自社で担う必要がある点も要注意です。中間業者を利用する場合は、その業者が持つ集客網を活用できるうえに、製品が魅力的に見えるような売り方もしてもらえます。しかしD2Cでは、自由度の高さと引き換えに独力で消費者を惹きつけなければいけません。
集客やブランディングを独力で行う関係上、D2Cは成果が出るまでに時間がかかります。すでに自社ブランドが抜群の知名度や固定ファンを所有している場合を除き、実行からしばらくは我慢の時期となるでしょう。成果が出るまで耐えられるだけの予算や時間的余裕を確保しておくことが大切です。
ご紹介したメリットとデメリットを踏まえたうえで、D2Cを導入するためのポイントを見ていきましょう。
後述する成功事例に見られるように、D2Cは競合との差別化が重要テーマの一つとなります。「独自のブランド価値に共感してくれた顧客」を増やせれば、リピート購入の増加や口コミ効果の発生により、収益の安定化と集客コストの削減を実現できるためです。
競合との差別化にあたっては、顧客のニーズや課題を把握し、その解決策を提案することが重要です。そして、そのようなニーズや課題を見つけるためには、顧客の動きをデータとして収集し可視化する必要があります。
具体的な手法として挙げられるのが、「カスタマジャーニーマップ(顧客が自社製品と出会い、購入に至るまでのプロセスの図)」の作成です。
その魅力や作り方は以下の記事で解説しています。
>>顧客理解を深めるための「カスタマージャーニー」とは?作り方や注意点について紹介
LTV(Life Time Value)とは、顧客が自社製品やサービスを利用し始めてから、生涯でどれだけの利益をもたらしてくれるのかを表す指標です。既存顧客のファン化・リピーター化に関連して活用されやすく、通常はLTVが大きいほど顧客が順調に定着していると判断します。
既存顧客を大切したいD2Cでは、LTVもKPIに設定し、最大化を目指すとよいでしょう。その計算方法や最大化のポイントは、以下の記事でご紹介しています。
>>LTVの重要性や顧客の定着化を図るために−計算方法や高めるためのポイント
長期的な取り組みであるD2Cでは、何度もPDCAサイクルを回して全体を改善していくことが求められます。サイトのデザインやUI、製品の質や価格帯、集客・プロモーションの施策、顧客からのお問い合わせ対応など、評価と改善の対象は多岐にわたります。多くの事項が自社の自由であり、自社の責任でもあると意識しながら取り組みを進めていきましょう。
最後に、D2Cの成功事例を2つご紹介します。
あるアパレルブランドでは、自社ECサイトを通じてオーダーメイドスーツを提供するD2Cに成功しています。
このブランドの特徴は、実店舗で採寸をしなくても、スマートフォン一つあればどこからでも注文ができること。手元にあるスーツやシャツのサイズを計って入力するだけで、自分の体型に合った一品を仕立ててもらえます。
万が一、到着後にサイズが合わなかったときには、お届けから一定日数以内なら無料で仕立て直しをお願いできるなど、安心面にも配慮されています。
消費者と素早く、かつ直接やり取りできることを活かしD2Cに成功したのが、ある月額制のヘアケアサービスです。
本サービスでは、顧客にオンラインで髪質診断に答えてもらい、その回答に応じてパーソナルヘアケアセットをお届け。使用後の感想を専任スタイリストが聞き出し、次回分以降はさらに髪質に合ったケア用品を提供します。
このような月額制のサービスは、リピーターを重視するD2Cと好相性です。
この記事ではD2Cについて、定義や注目の背景、関連用語や既存モデルとの違い、メリット&デメリット、導入のポイントや成功事例までご紹介しました。
D2Cとは、メーカー・製造者である企業が消費者と直接取引をするビジネスモデルのこと。施策の自由度や収益性の高さといったメリットを持ちますが、一方で成果が生じるまでには時間が必要とされます。D2Cを取り組む際には、早め早めの対策を進めておきましょう。
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